「2010年代SF傑作選1」の感想

大森 望 (編集),伴名 練 (編集)「2010年代SF傑作選1」を読みました。

2010年代SF傑作選1|Amazon

「2010年代SF傑作選」は、全2巻。
この1巻目にはベテラン勢を、2巻目には新人勢を収録しているとのこと。
わたしはSF初心者なので、読んだことがある作家さんは長谷敏司さんだけでした。
デビュー作に『戦略拠点32098 楽園』との記載があり、あーそういえば、と思い出せました。

収録一覧

  • 小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
  • 上田早夕里「滑車の地」
  • 田中啓文「怪獣惑星キンゴジ」
  • 仁木 稔「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」
  • 北野勇作「大卒ポンプ」
  • 神林長平「鮮やかな賭け」
  • 津原泰水「テルミン嬢」
  • 円城 塔「文字渦」
  • 飛 浩隆「海の指」
  • 長谷敏司「allo, toi, toi」

あらすじと短評

ネタバレを含みます。

小川一水「アリスマ王の愛した魔物」

算術によって覇権を手に入れる王を描いたファンタジー。
人員を投入して算術を行わせる『算廠』は、現実世界で言うCPUみたいなものかなーと思いながら読みました。
評価:よい

上田早夕里「滑車の地」

冥界という泥棲生物が蠢く海に脅かされながら、ロープで繋がった塔で生きる人達のお話。なお、ロープはたまに切れる。
短編でありながら、そのまま長編小説にできそうなくらい魅力的な設定が詰め込まれている点が印象的でした。
<滑車の地>の外を探索するための希望の飛行機「アジサシ」、地下都市や地下生まれで飛行機の部品と一緒に商人に買われた獣人「リーア」など。
評価:すき

田中啓文「怪獣惑星キンゴジ」

惑星キンゴジにある、本物の怪獣に会える「怪獣ランド」で発生した怪獣ガッドジラ殺人事件を調査するために、怪獣ガッドジラに脳移植して捜査をする探偵の話。短編集「宇宙探偵ノーグレイ」の第1話。
ネタSF。他の作品もきっとこういう作風なのだろうということが、タイトルで分かる。そのため、人を選ぶ作品と言えるかもしれないが、個人的にはアリ。
評価:あり

仁木 稔「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」

遺伝子工学が発展した世界で、人工生命「妖精」や妖精企業を交えて、国家や組織の陰謀を描く話。全体に話は暗い。
シベリアやチャイナという地名は登場するが、「アメリカ」という表現は避けられていた。
妖精に対する残虐な表現(四肢断裂、欠損など)が、個人的にはキツかった。
アメリカやソビエトなどの国家の対立を描く系統のテーマも、正直あまり興味がありません。
冷戦時代を経験した世代じゃないので、上の世代はこういうのが好きなのかもしれないな、という感想です。
ぜんぜんあってよい系統の話だと思いますが、私向きという感じがしないということ。
つまり、“Not for me"感があるんですよね。
評価:すきではない

北野勇作「大卒ポンプ」

戦時中に、研究所の試作品のポンプと癒着してしまった従業員にまつわるお話。
会話文にカッコを使っていない点が印象的でした。
序盤のおもしろさと終盤のわびしさが同居する作品。
とても短いお話のわりに、胸に残るものがある。
評価:すき

神林長平「鮮やかな賭け」

婚約者同士の痴話喧嘩に端を発する賭けの話題から、人工知能の思考世界とその監視者と自由意志の話題になる話。『戦闘妖精・雪風』の人。
すごくオーソドックスなSF感がある。
評価:よい

津原泰水「テルミン嬢」

脳科学が発達した世界で、能動的音楽療法のために小型音響装置「ミジンコ」を装着している女性が、特定の男性の波長に共鳴してアリアを歌い続けてしまう話。
「五色の舟」という作品の代わりに採録されたらしい。そちらも見てみるべきだろうか。
評価:まあまあ

円城 塔「文字渦」

始皇帝の陵墓から発掘された文字に関する話を、陶俑の職人の俑の視点を交えて描くお話。
むずかしい。というか、高度であるという印象を受ける。
どうしてこんな話を書けるのだろうか。
なにを食べたらこういう話を書けるのだろうか。
評価:むずかしいが、よい

飛 浩隆「海の指」

過去の物質情報を可逆圧縮して保存している灰洋《うみ》に地球が覆われて、わずかに残された陸地に生きる人のお話。ポストアポカリプス物。
灰洋で夫の昭吾をなくした志津子と和志の視点で語られる。
一見して奇抜な世界観ではあるが、ちきんと風景の描写がされており、イメージがしやすく感じました。
評価:すき

長谷敏司「allo, toi, toi」

収監された小児性虐待者の脳にITP(Image Transfer Protocol)という制御言語で動作する拡張機器を埋め込み、「好き」という感情についてデータを採集しようとする話。
これもまた、チョットキツイ。
少年に対する虐待や四肢断裂の明確な表現は、この1巻目だけでも2作品ある。「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」と本作。
わたしがジャンルSFというものを知らないから、だから多いと感じるのかもしれないが、実はそういうもんなんだろうか。
10作品中2作品、打率2割。

本作にも、以前に読んだ『戦略拠点32098 楽園』にも、純真無垢な少女が登場したように思う。
さては、著者はそういう子が好きorそっち方向につよい興味があるのではないかという気がしてしまうw。
2作品中2作品、打率10割。
これだけで偏見を持たずに、他作品もちゃんと読んでみたほうが、いいかもしれませんねー。

評価:「好き」ではない

あとがき

次に読んでみようかなと思った本のリストを挙げておこうと思います。

  • 上田 早夕里「火星ダーク・バラード」
  • 北野勇作「どろんころんど 」
  • 円城塔のどれか、「Self-Reference ENGINE」か

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