「2010年代SF傑作選2」の感想

大森 望 (編集),伴名 練 (編集)「2010年代SF傑作選2」を読みました。

2010年代SF傑作選2|Amazon

「2010年代SF傑作選」は 全2巻。
2巻目は、新人勢を収録しているとのこと。

収録作品

  • 小川 哲「バック・イン・ザ・デイズ」
  • 宮内悠介「スペース金融道」
  • 三方行成「流れよわが涙、と孔明は言った」
  • 酉島伝法「環刑錮」
  • 高山羽根子「うどん キツネつきの」
  • 柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」
  • 藤井太洋「従卒トム」
  • 野崎まど「第五の地平」
  • 倉田タカシ「トーキョーを食べて育った」
  • 小田雅久仁「11階」

あらすじと短評

ネタバレを含みます。

小川 哲「バック・イン・ザ・デイズ」

個人の視覚や聴覚の情報を収集して過去再体験サービスを提供する企業と、情報提供契約する父と、その息子の話。
「ユートロニカのこちら側」の第二話。
よい小説でした。

ただし、最後の一行の「クレヨン」という表現に、違和感というか、ズッコケ感を感じました。
主人公の心情を「クレヨン」の箱で表現する伏線なんて合っただろうか。
なにかを見逃しただけだろうか。
十代という時期の色あざやかさを表現するためかもしれないが、しかし十五歳という年齢は「クレヨン」で表現する時期をあまりに過ぎてはいないだろうか。
なにかを見逃しただけだろうか。

評価:よい

宮内悠介「スペース金融道」

宇宙の果まで取り立てる借金取りのお話。第一話。
量子金融工学という概念を知りました。

評価:あり

三方行成「流れよわが涙、と孔明は言った」

「泣いて馬謖を斬る」という故事をもとに作られた小説。ネタ枠。
小説投稿サイト「カクヨム」で投稿されていたもの。

ネット小説らしく、リズムよく、ぶっ飛んでいる内容。
キライじゃない。
こういう作品もSF傑作選に収録されるのか、という感想。

評価:あり

酉島伝法「環刑錮」

刑罰で環状生物にされた囚人のお話。脱出あり。

非常に読みにくい。理由は以下の通り。

  • 漢字の比率がむやみに高い
    もしPCやキーボードを使わずに執筆してたら、きっと著者は腱鞘炎になるだろう。
  • 造語がめっちゃ多い
  • 一見した読みとは異なる独自ルビが多用されている
    例:前端部《あたま》、腸《はらわた》。もう、ひらがなで書いてよー。そうしたら雰囲気が崩れるか。

序盤は読んでいてほんとうに不快すぎて、たびたび本をぶん投げたくなった。ほんとに。
苦しい序盤を乗り越えると、話の方向性がだんだんと見えてきて、なんとかゴールまでたどりつけました。
もはや、読者が著者からの刑罰をうけながらも、この小説から脱出した感覚すらある読後感。
さては、これが狙いか?
お金を払って読む小説というよりは、お金がもらえるなら読む…かもしれない小説。
正直、しばらく著者の作品は読まなくてもいいやという気持ちはあります。

ただし、こういう作品が好きな人もいるんだろうな、という一定の理解はあります。
たとえば、虫が苦手な人と、好きな人とがいるみたいに。
また、(私にとっては)不快感とはいえ、これだけ読者の反応を引き出せる描写力は著者の魅力なのかもしれない。

評価:にがて、きらい

高山羽根子「うどん キツネつきの」

パチンコ屋の屋上で死にかけていた生物の幼体を拾って育てる三姉妹の話。
生命体につけた名前が「うどん」。
どう考えても犬じゃなさそうな「うどん」。

小説として読みやすい。こういう評価が適切かどうかは知りませんが。
ただし、ラストはよくわかりませんでした。

評価:あり

柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」

誕生してから死ぬまでほどんどヘッドセットを装着する民族のお話。VRと民俗学を組み合わせている。
SFマガジンのVR/AR特集の作品。

まじめな語り口のほら話。よくできているとは思う。
著者名が戦国武将の名前である。とても気になる。
このままではGoogleabilityが低くなってしまうので、一文字でもいいから、変えたほうが良かったのではないだろうか。

評価:あり

藤井太洋「従卒トム」

円城塔+伊藤計劃「屍者の帝国」の「死者をプログラム制御し労働力として活用する」設定に準拠した二次創作。幕末の日本を舞台に、アメリカの黒人男性トムと彼が指揮する屍者部隊を描く。

おもしろいと思いました。
著者の一次創作も見てみたい。

評価:よい

野崎まど「第五の地平」

モンゴルの英雄チンギス・ハーンを主人公に、草原を追い求め、宇宙に飛び出す話。ネタSF。
宇宙草や高次元空間《大モンゴル》などの創作概念が登場する。

こういう作品もありなんですね。
ただし、2010年代傑作選の一枠をこれに割り当ててよかったのだろうか。
いや、もしかしたらこの年代を理解するためには適切な作品なのかもしれない。

評価:あり

倉田タカシ「トーキョーを食べて育った」

核戦争後の荒廃した世界を、マシンに乗りながらたくましく生きている少年少女たちを描くお話。
ポストアポカリプス物。

本作は十代の主観で描写されているので、かなり理解しにくかった。
意図的にそうしているのだろうが。

評価:わかりにくい

小田雅久仁「11階」

主人公と妻の日菜子の生涯を描く。
日菜子は片頭痛と白昼夢に襲われることがあり、10階の建物の「11階」にトラウマを抱えている。
そして、「11階」という異界が幸せな夫婦生活を徐々に侵食していく。

内容はSFというより、ホラー・ファンタジー寄り。
本書の収録作品の中で、いちばん文章に引き込まれた。
それは私がこういうホラーを読むのがはじめてだからなのか、
それとも、著者の描写がすばらしいからかなのか、
もしくはその両方か。

評価:すき

あとがき

次に読んでみようかなと思った本のリストを挙げておこうと思います。

  • 小川 哲
    • 「ユートロニカのこちら側」
    • 「ゲームの王国」
  • 藤井 太洋
    • 「Gene Mapper -full build-」
    • 「オービタル・クラウド」
    • 「ハロー・ワールド」
  • 小田雅久仁
    • 「増大派に告ぐ」

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